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kawachinomanamichan kawachinomanamichan

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wgkk  パラレルワールドの賢志郎物語。 書き終わったらタグつけます。



*書き込み中✏

真夜中に帰って来ると、居間はシーンと静まり返っている。まりちゃんは、寝室のベッドで大人しく寝ているのだ。若奥様のくせに、起きて旦那を待っているとかしない。眠かったら寝る。明日早い時は、眠くなくても寝ちゃう。自由なまりちゃん。そんな時は、おかえり~というメモが静かな居間のテーブルに置いてあるだけだ。今日のメモには、パンダが酒を飲んでる絵が描いてある。こないだは、クマとヒヨコがビアガーデンで花火を見ているという大作だった。クマの下には小さく「リラックマ」と書いてある。多分「おかえり」だけじゃ無愛想だから、サービスのつもりなんだろう。下手そうで下手とも言い切れない絵心がある。真夜中、パンダやリラックマのイタズラ書きを眺めながら一杯やってると、女の子と暮らしている幸せに笑えてくる。ニュースをつけて、ビールとサラミで軽い晩酌を始めた。しばしパンダと酒盛り、落ち着いた日々だ。結婚は墓場だなんてよく聞くが、随分気取った言いぐさだと思う。勿論いいことばかりではないが、独り身では絶対に味わえない喜びもある。そうこんな夜、奥さんのイタズラ書きを肴に一杯飲むことも。一杯飲んだあと、奥さんの暖かい布団に潜り込むことも。
「まりちゃん、ただいま…」
ベッドに入り、背中から抱き締めると、まりちゃんの体はポカポカに暖まっている。こんな幸せは、ここ以外にはどこにもない。うすら寒い夜に、愛する人の体が暖かいなんて。
「んん、けんしろう、おかえり…」
半分眠りながらも、俺の手をギュッと握ってくれるまりちゃん。可愛い。Tシャツとショーツ1枚だけ着て。そのすべすべした太腿を撫でている内に、無性に抱きたくなってくる。でも、寝込みを襲ってこないだは怒られた。いつが良くていつは駄目なのかよく分からない。それでも一応、首筋に唇を付けて吸ってみる。
「ん…」
まりちゃんが僅かに背を反らせた。

「コンビ仲のええのは大成せんのやで。こらあエンタツ・アチャコの時代からの不文律や」


バンギャのゆきちゃんが、トイレの鏡の前でピアスをずらりと並べている。9月いっぱい夏休みなので、構内は静まり返っている。リクルートスーツにそんなたくさんのピアスつけて、ゆきちゃんはどこ行くつもりだろう。
「おはようございます木崎さん、いや川西さん」
「ん?おはよ…まあまあ、ゆきちゃんは就活?」
「はい、バンギャがバレていまだに内定が取れません。今日も面接です。あ、指輪…」
「あ」
「これは法的に男女関係を届け出ましたね?」
「え?バンギャ警察?」
「あと、ネットニュースの動画見ましたけどね、ガッツリまりちゃんて言っちゃってるじゃないですか」
「そーなのよあれねー…左側の人がポロッとね…」
「ちょっとスベってたのがまたいいですね」
「そう、それが一番の問題」
「でもめっちゃ可愛かったですよ二人とも。ウケより可愛さが和牛じゃないですか?和牛のファンとジャニヲタの兼業って最近多いんですよ。ってことは和牛がジャニーズ並みに可愛いってことですよ。まあバンギャのお口には和牛は合わないですけどね。ちなみにですけどバンギャとジャニヲタは昔っから犬猿の仲ですけどね。っていうかさっきから結婚認めてますよね?逮捕しますよ」
「いや、めっちゃ喋るね…あ、そうだ。ピアスありがとうね。お陰でキレイに定着したよ」
「マジすか。ずっと会えなかったんで心配してましたよ。やっぱ穴開けはニードルですから」
「ゆきちゃんがニードル手にして構えた時は、殺されるかと思ったよ…」
教師時代は、ピアスも茶髪も自粛していた。教師の為の校則じゃないから、自粛する理由は無い。が、必ず面倒なことを言い出す生徒がいて、「先生だってやってるじゃん。なんでうちらだけ」と来る。それが面倒。特に若かった私はその標的になりがちだった。だからずっと黒髪。ずっとピアスなし。教師を廃業した後に知り合ったバンギャのゆきちゃんは、両耳合わせて18個のピアスをしていた。ピアス問題の顧問として、ある日の夕方、空き教室で、両耳に穴を開けてもらった。
「木崎さん、入れていいですか?」
「ちょっとー、エロいよう…」
「やめてください、フッ、指先が…狂う…」
「ごめんごめん…真面目に、はい、お願いします!」
「では…ニードル当てますよ」
ゆきちゃんが指先で器用に耳を固定した。ニードルの先が耳たぶに浅く刺さった。
「…あん…」
「木崎さん…声…」
「ごめんごめんお願い続けて…」
ゆきちゃんは肩を震わせて笑っていた。これは笑える。賢志郎にしか聞かせない声を聞かれた。ゆきちゃんと二人、とことん女子っぽい時間を過ごした。ピアスの穴をどうやって開けたのかは賢志郎には言わない。耳の処女をゆきちゃんに捧げたみたいな、特別に親密なあの時のことは、賢志郎には喋りたくない。
「ねえゆきちゃん、そのピアス着けて面接行くの?」
「はい、今日は勝算あるんで」
「18個着けてくの?」
「ええ、全着けで」
「ちなみに業種は…」
「出版です。ではっ」

「まりちゃん、付き合いだした頃さ、私のカレーは世界一美味しいって言ってたな」
「言ったかなあそんなこと…」
洗面所で、賢志郎の髪をセットしてあげながら。ドライヤーで髪をフワッとさせて、ワックスでキープする。そんなことすら自分じゃしない人。更に仕上げでアイロンを使えば、テレビで見る芸人川西賢志郎の出来上がり。でも自分じゃ絶対しない人。そこがいいんだけど。されるがままの賢志郎は、ジーンズのポケットに両手を突っ込んでボーッと呟いた。
「可愛かったなあ、あん時の言い方…」
「ふふ、私も賢志郎の気を引こうと必死になってたのかな…」
「そうなん?いっつも余裕に見えたけどな…」
「あのね、ワックスは両手に思いっきり広げて、髪全体にこうやって…」
「いてて」
「あ、ごめん」
「おいこら、毛ぇ抜けるやんけ…笑いすぎや」
「ほら、カッコいい…」
ほんと、ちゃんとセットすればいい男。今更ながら、キレイな顔。ファンは、賢志郎のこの顔から好きになるんだろうか。「私が入社して以来、こんなに人気が伸びた芸人はいませんね」とマネージャーさんに言わしめた。結婚してから頻繁に顔を合わすようになった敏腕マネージャーは、賢志郎に関する基礎知識を色々教えてくれた。
「数年前までは、和牛と言えば人気ない、垢抜けないって自他共に認める感じでしたね。私も東京におりましたんで傍では見ていないんですが、突然垢抜けたというか、川西くんのツッコミが化けたというか、まさかこんな風に人気が出るとは思ってもみませんでした」
そして最後にこう言って去って行った。
「結婚は、吉と出ると確信していますよ。今後とも宜しくお願いいたします」
髪の毛が決まった賢志郎は、狭い洗面所で唇を重ねてきた。
「いっつもありがとうな。まりちゃん」
「いいえ、私の方が果報者ですよ…」
仕事へ行くというのにキスをやめない賢志郎。唇が次第に下へと移動する。だんだん、キスだけじゃ済まない空気になってくる。賢志郎がチラッと壁の時計を見た。そう、今じゃなくても、今夜があるよ。賢志郎。

#川西賢志郎
#和牛川西
#和牛川西賢志郎


「以前よりお付き合いしていた方と、本日入籍いたしました。今後とも精進致しますので、変わらぬ応援を宜しくお願い申し上げます。川西賢志郎」

「あー、遂にやっちゃったねえ」
「ツイッターで結婚報告か。まあそんなもんやろな」
「この後ヤフーニュースやな」
「ナタリーさんとな」
「嫁さんの似顔絵描いて出すプチ会見とな」
「ファンが分散するな」
「分散してもお前のファンは増えん」
「いや分からんで。やけくそになったファンが回って来るかもしれん」
「やけくそになったファンで丁度ええわ」
「しかし川西も人気絶頂の時になんで結婚するんやろ。もっと遊びたないんやろか」
「いや、なんだかんだ川西もこの状態で3~4年やで。もうお腹いっぱいやろ。裏では遊んどったで」
「そうやな、ほんとえげつなくモテてたよなあ川西は…」
「ああいう草食系がええねん。今の女子には」
「ガツガツしないやつな。俺には無理」
「身辺整理して結婚して、川西ブームを終わらして、あとは漫才に邁進か…真面目やな」
「そこがまたあいつの弱点よ」

「賢志郎、何か送られてきたよー」
まりちゃんが居間で何かガタガタしている。連日の結婚祝い飲みで、とうとう体内のアルコール分解酵素が底をついた。今日は重度の二日酔い。ベッドの上から動けない。
「なーにー…」
エプロン姿のまりちゃんが傍までやって来て、ベッドに腰かけた。髪も後ろでくくって、絵に描いたような若奥様感が出てる。
「これお酒じゃない?えーとね、小澤渓さん…」
「…小澤さん?誰や…」
「あの、エロい編集長の小澤さんじゃないの?」
「あー…」
高級中華料理屋で、エロ料理トークを延々と聞かされたあの夜の、グルメ雑誌編集長小澤さん。

川西くん
結婚おめでとう
これからも
いい女と
いいセックスで
充実の人生を

メッセージカードを見たまりちゃんは、体を折り曲げて、声にならないほど笑った。
「ああおっかし…悪いオヤジねえ…」
「出版界の高田純次やて」
「なるほどねぇ…ねえ、賢志郎」
「ん?」
まりちゃんが覆い被さってきた。柔らかい体が密着する。しかしその幸福感を上回る頭痛と吐き気。もう酒やめる。
「この人に色々喋ったんじゃない?」
「いやあ…まさか」
「へえ…いいセックスってどういうのなの?」
「一般論よ。おしなべて一般論…」
「何ようその顔、にくたらしい…」
「あ、やめてまりちゃん…」
実際は、まりちゃんについて洗いざらい語った。小澤さんとは一度っきりの飲みだと思ったからだ。次々と良い酒を出してきてはまりちゃんのことをのろけさせ、その勢いで俺にしか知り得ないまりちゃんの諸々の性癖、痴態、手順、言葉などを喋らされた。最後は、早々に閉店の札を出したシェフも参入して、両脇からステレオ状態で骨までしゃぶられた。シェフは小澤さんにナイスアシストの連発で、所詮グルかよ、という結末。まりちゃんのエロさが50代の男二人を魅了し、悔しがらせた一夜だった。後日、送られてきた小澤編集長の最新号には、俺の発した言葉の数々がちりばめられていた。芸人が血の滲むような努力をして日々紡いだ単語と発想を、易々と絡め取っていった50代の、働き盛りの、ちょい悪オヤジの。まあ、高級中華と酒代で、日当ぐらいにはなったか。仕事っていうのはこうやるもんだぜって、得意気な小澤さんの声が誌面から聞こえた。
『越乃寒梅、久保田を生んだ新潟に、久々のスターが現れました。その名も“荷札酒”。日本酒の魅力に取りつかれた24歳の杜氏が、大学を休学して酒作りに取り組んでいます。詳細は小誌最新号をご覧下さい。』
日本酒に添えられた紙切れにはこう書かれていた。
「ねー飲もーよ。美味しそうだよ賢志郎…」
「何言ってんのまりちゃん、朝やで?俺もう酒はやめたし…」
「やめれるわけないでしょ。嘘ばっかり…」
フワッといい香りに包まれて、まりちゃんが唇を重ねてきた。濡れた口紅の感触。掴まえようと手を伸ばしたら、フワッといなくなった。遠ざかりながら、声がする。
「学校行ってくるね。ご飯よそって食べてね…」
俺のまりちゃんは、もういなくならない。この夏に、鴻巣の家を引き払って、うちに越してきた。奥さんというより、ウチの子という感じ。可愛い女の子が、うちの中をうろちょろと動き回って料理したり掃除したり、怒ったり笑ったり。出来事全てが童話みたいで現実感がない。恋愛がまだ続いていて、生活にしっくり馴染んで来ないせいだ。でもとにかく俺にはまりちゃんがいる。これまで数々のトラブルに見舞われた俺達の関係も、まりちゃんが動じなかったおかげで乗り越えられた。どうにかなるよ、賢志郎。どうにかなんなくても私がいるよ、大丈夫。頼もしいまりちゃんの笑顔。ここが俺の場所。思春期に自分の居場所を失った。彼女とも別れ、大学もやめ、芸人になり、漂泊を続けていた。それももう終わりだ。

#川西賢志郎
#和牛川西
#和牛川西賢志郎
#遂に入籍
#ツイッターで報告
#かまいたちを踏襲
#dancyu
#編集長
#植野広生
#日本酒
#荷札酒
#新潟の酒


ピアスを取る時、少しだけ首を傾げる。それだけのことでドキッとする。薄いガラス板がまりちゃんの耳元で揺れる。取らないで欲しい。
「取るの?ピアス…」
頬にキスしながら言うと、まりちゃんの指先が止まった。ベッドの上。キャミソール姿でしどけなく、女の子座りをしているのがめちゃくちゃに萌える。これからすることは決まっているから、それを待つ時間すらいとおしい。
「うん、取る。割れちゃうもん…」
「乱暴にせえへんよ」
「だって賢志郎がくれたのに…」
「つけたままでええよ」
口づけの合間に、甘すぎる不毛な問答を繰り返す。まだ化粧を落としていないまりちゃんの唇は、赤いツヤを湛えている。
「うん…どうしよ…」
「つけてしよ…」
「うん…」
目を伏せて頷くまりちゃん。頬が上気している。付き合ってから、何度抱き合ったか知れないのに、いまだにこんなことで顔を赤らめる。清純のカード、淫乱のカード、どちらを切ってくるか始めてみるまで分からない。天性なのか、演技なのか、それも分からないが。まりちゃんは、なし崩しに流されるのもまた良しというか、鷹揚。日常の些末なことは、大概おっとりと受け入れてくれる。どうでもいいことでは我を通さない。賢いんだな。ただ、ピアスの一件で喧嘩になったように、譲らないと決めたらきっちり怒りを表明する。おっとりした美人が怒った時の迫力たるや。そんな時は俺が折れるしかない。これは恐らく、まりちゃんに上手いこと操縦されてるということなのだろう。幸せの分類の一つなのだろう。
ピアスというものは、最初1ヶ月もつけっぱなしにして、穴を落ち着かせるんだという。その期間を過ぎてようやく他のピアスをつけることが出来るわけだ。ピアスでひと悶着したせいで、それ以来どこへ行ってもピアスが目につくようになった。旅先の土産物屋にも、驚くほどたくさんのピアスが並んでいることを知った。贈る相手のいる男だけが、ここに気づくのだろう。ピアス売り場にいることの優越感。そして営業先でついに見つけた、タイル一個分ほどの大きさの、薄いガラス箔のピアス。これをまりちゃんが着けたら、さぞかし似合うだろう。無性にプレゼントしたい衝動に駆られていた。
「財布の紐の固いお前が珍しいやん」
一番見られたくない瞬間に、一番見られたくない奴に声をかけられてしまった。泡食って包みをバッグにしまったが、遅かった。
「お母さんにか」
「わざと言うてんねやろ」
「分かったお姉ちゃんにやな?」
「あっち行っとれや」
「それにしてもセンスええなあそのピアス。まりちゃん喜ぶで」
「あ、ほんまに?水田が言うなら大丈夫やな」
「いや、心配でずーっと見とったんやで。どんなだっさいもん買うんやろ思て」
「…まあなあ。その心配はごもっともや」
「まりちゃんには、これ琉球ガラスってちゃんと言うて渡すんやで」
「琉球ガラス?…分かった」
ある日突然ピアス穴を開けたまりちゃん。不良になった。俺の知っているまりちゃんじゃなくなった。あの時本気でそう思った。我ながらアホだが、本当に俺の恋愛脳は高校生レベルから進歩していないんだからしょうがない。中身は幼稚な独占欲だ。誰にも見せずに隠しておきたいのに、ピアスなんかしたら悪い虫が寄ってくる。しかしこんな低脳な言い分が、大人で恋愛上手なまりちゃんに通用する筈がない。案の定喧嘩、のち撃沈。当然だ。
薄いガラス箔のピアス。無粋な俺が、まりちゃんにあげた殆ど初めてのプレゼント。それをまりちゃんが耳に着けた瞬間、俺は、世の男達が何故恋人に貴金属を贈るかの理由を悟った。贈ったアクセサリーを着けた女は、自分の物に見えてくる。所有欲の充足だ。ガラス箔のピアスをまりちゃんに着けさせた俺の喜びは、なかなか大きかった。俺の物のような顔をして、全然俺の物じゃないまりちゃん。従順のようで、心は掴み所のないまりちゃん。もどかしいまりちゃんへの思いがいつもある。
「ん、ん…」
丹念なキスの合間に、まりちゃんが小さな声を洩らした。それが聞きたくて、また繰り返しキスをする。俺を迎えるように少しだけ開いた唇。そこに舌を差し入れて、まりちゃんの暖かい舌を探す。細い肩紐を落とすと、柔らかい胸元が露になった。美しい紡垂形の膨らみ。キスを続けながら、張りのある膨らみを手のひらで弄ぶ。まりちゃんは目を閉じて、両腿を気持ち良さそうに擦り合わす。
「や…あ、やだ…」
ベッドに寝かされ、快感に身を委ねるまりちゃんが、俺の名前を小さく呼んだ。何?と聞いても答えは返ってこない。この時、まりちゃんの体に没頭するひととき、何もかも忘れられる。結果を求められるプレッシャー、時間の無い焦燥感、人気が失速する恐怖感、全てを捨ててもいいから自分の人生の幸せを求めたい気持ち。色んな想念がまりちゃんを抱くひとときは、掻き消える。まりちゃんの柔らかく蕩けた奥に入りきったあと、一瞬の休止、目の前にはガラスのピアスがあった。俺のピアスだけを身につけて、俺を受け入れているまりちゃん。この絵面は、男の下らない夢の一つじゃないだろうか。思わず耳たぶに口づける。
「あっ…」
俺の耳許で、途切れ途切れの可愛い声を上げる。白い肌に、華奢な顎のラインに、透明なピアスが揺れている。

#賢志郎に嫁を
#激甘な展開
#ガラスのピアス
#ハリオのピアス
#箔


頬に触れる肌掛けが気持ちいい。これは高級なやつだから。布団にぬくぬくとくるまって、始発電車の音を聞く。今日は学校に行かなくていいんだ。院生は基本、土曜日も登校するものだが、今日は玉塚先生が学会出張なので行く義理はない。傍らで賢志郎は、寒そうに丸まって寝ている。昨夜、喧嘩して怒った私はベッドを占領して寝た。それで布団に入れなかったのか、それとも単に寝相が悪いのか、賢志郎は布団から完全に飛び出している。Tシャツとパンツで。
「…寒い…」
やっぱり寒いんだ。呟きを聞いて思わず吹き出した。じゃあ布団を引き寄せるとかしたらどうかと思うが、賢志郎はただただ自分の表面積を小さくすることで寒さをしのごうとしていた。人の布団を引っ張ったりしない。それが賢志郎なんだけど。
「賢志郎、お布団入って…」
昨夜の喧嘩は水に流して、肌掛けと羽毛布団をパサリと掛けてあげた。賢志郎は一瞬薄目を開け、私の胸元に頬をすり寄せた。
「ありがとう、まりちゃん…」
嬉しそうに私になついて。ぼっさぼさの頭をして。可愛いひと。9月に入り、明け方は秋の気配がする。でもパジャマは着ない。下着だけを身につけて、布団と賢志郎の暖かさだけで寝るのが至福だ。
肌掛けは、賢志郎のお母さんが同居の準備品として贈ってくれた。布団の一流メーカー京都西川製。いくら新婚とは言え布団は二組必要でしょ、と電話の向こうでお母さんは言った。はい、と流したが、あそこは笑うとこだったのかしら。賢志郎の実家へ挨拶に行った時は、下にも置かないもてなしを受けた。特にお母さんの喜び様は一通りでなかった。目頭を時折押さえながらお母さんが語って言うにはこうだ。
「そもそもやで。せっかく入った大学もすぐやめて、芸人になる言うて、そこから10年も鳴かず飛ばずで、相方さんも何度も変えて。お父さんもお母さんもお姉ちゃんもなんぼ心配したことか。最近でこそちょこちょこテレビに出てるけれどもや、人気なんてあてにならないもんやで。それがこんな綺麗で、育ちがよくて、教養のあるお嬢さんが、賢志郎と世帯持ってもええなんてなあ、ありがとうな、ほんま勇気あるわ真理子さん…」
賢志郎がうなだれればうなだれるほど、お母さんの話しぶりはヒートアップしていった。思えば今回の結婚の挨拶回りで、私の実家では「真理子を悲しませたら殺す」と凄まれ、自分の実家では、今日までの親不孝の総括をされ、賢志郎かわいそう。まあ結局笑っちゃうんだけど。

昨日の夜のこと。買ってきたプレモル6缶パックをテーブルに置くと、待ちかねたように後ろから抱き締めてきた。背中に賢志郎の体温が伝わる。
「まりちゃん、今日の服可愛い…女の子らしくて」
言いながら、首筋に唇を当ててくる。待って。気持ちいい。
「うん、最近ずっとTシャツとジーパンだったから…」
次々に触れられる快感のせいで、脳細胞の動きが鈍る。噛み合わない返事をしている。
「Tシャツ姿も可愛いけどな、やっぱりこういう…清楚な…」
首筋にキスしながら、賢志郎が切れ切れに喋る。唇が触れたり離れたり、たまらない気持ちになる。賢志郎の綺麗な指が、ブラウスのボタンを器用に外していく。2つ外すと、はだけた胸元にもう手が入ってきた。ああ、今日はいきなりなんだ。ビールを冷蔵庫に入れていないことが気になるけど、性急な賢志郎を味わえるのも嬉しい。
「あっ」
暖かい手が服の中に入ってきて、膨らみを荒っぽく揉みしだいた。耳たぶに歯が立てられる。声がもう我慢できない。
「あっ、んん…」
「まりちゃん…声我慢しないで…」
「いや…違うもん…」
「違わないでしょ、まりちゃん…?あれ?」
「ん…何」
「ピアスしたん?」
賢志郎が私のピアスをまじまじと見ている。甘い空気が掻き消えた。
「なあ、いつしたんこれ?」
眉間にシワを寄せた賢志郎を見て、全て飲み込めた。古い男なのだ。いや知ってたけど。でもよりによってピアスが地雷だったとは。物欲の薄い私のささやかな望み、教師をやめたらピアスをつけたかった。ここを譲ったら、この旧弊な男との結婚生活に影響が出てくるような気がした。いや、絶対出てくる。
「え?ピアスしちゃ駄目なの?」
「だって体に穴あけることやん、ピアスって。なんでそんな事すんねん。なんで俺に言わんでやったん」
「え?ピアスって賢志郎の許可制だったの?ピアスを開けさせて頂きますって?宜しいでしょうかって?そうなの?」
語気も荒く、渾身の怒りをこめて賢志郎を見た。たじろいだ賢志郎を尻目に、私はベッドを占領して早々と就寝したのだった。

「きゃっ…」
腕を引き寄せられて、賢志郎の胸にすっぽりと収められる。明け方、布団から抜け出そうとした時。賢志郎が捨て犬みたいな表情でじっと見ていた。
「昨日はごめんな…まりちゃん」
「うん…反省したの?」
「した…ずっとしてた…言ってすぐ反省した」
「馬鹿ね…」
「まりちゃん…」
「うん?」
賢志郎の指先が、私の耳たぶに触れた。
「ピアスしたんや、可愛いやん…」
「うふふ、ありがと…」
折れてくれてありがとう。賢志郎が、喧嘩の前まで時間を戻してくれたから、また甘い所からやり直し。

#川西賢志郎
#和牛川西
#和牛川西賢志郎
#古い男
#お弁当作るの女の子の仕事やとか言ってるし
#実態はこんな感じかと


「ねえ、川西くん、これ旨いだろ?」
「いや、めっちゃめちゃ旨くてびっくりしてます」
突き出し的に出てきた冷菜から、器用に春雨だけを抜き出して食べる50代の男。仕立てのいいシャツを一枚で着こなして、仕事に家庭に充実したいい男のオーラが漂ってくる。
「このさあ、弾力の残った春雨の上に、赤く濡れた甘エビとイクラがさ」
「旨いですね」
男は、パクパク食べている俺をじっと見た。俺は舌のIQが低いが、これは完全に旨いということが分かった。しかし、旨い時に旨いという語彙しかないのが弱点でもある。
「川西くん、これ食ったらさ、もうさ…口の中がエッロくなんないか?」
「はあ…旨いですけど」
思わずまじまじと彼を見た。このおっさん、俺のこと食おうと思ってんのかな。それともただの独特なグルメ感覚なのかな。それよりもさっきから旨いしか言っていない自分が気になってくる。
「その上に黄色いカラスミがかかってんだろ?これがまたドレスみたいでさ、これを剥ぐとよ、その下に潤った食材が三つも隠れているというエロさよ…」
黙って食うことが出来ないのかと思いながらも、じわじわと笑えてきた。確かにエロい。エビ。イクラ。春雨。下等生物と、魚卵と…なんだ、春雨って?
「エビが…」
「そう、エビを噛み締めた時のエッロい弾力とさ…」
「イクラの…」
「そうそう、イクラを舌で潰すとエッロい液体が出て来て」
「春雨…」
俺はもう声を殺して笑っていた。
「春雨な、この絶妙な弾力と柔らかさのバランス。いい女の腰つきみたいだろ?もうこの三つの旨みが絡み合って、口ん中が18禁だぜ」
こらえきれずに爆笑した。なんなんだこのエロで押し通すトークは。
「お兄さん、その男相手にしちゃダメだよ。エロ目線でしか料理を語れないんだから。小澤のエロ雑誌、よく発禁にならないな」
カウンターの中でシェフらしき人が歯切れよく話してきた。二人はいかにも親しそうだ。シェフの指先では、また次なる食材がエロそうな姿を表している。
「エロ雑誌じゃないわ。インテリ系グルメ雑誌だわ。それにな、エロいっていうのは料理に対する最高級の賛美だぜ。喜べよシェフ」
「旨かったら黙って食えよ。可愛い料理がさ、お前の口の中で犯されてるみたいで泣けてくるぜ」
「変な若造に食われちゃうより、俺に優しく食われる方がいいでしょうがねえ。川西くん」
「やめて、リアルな話は…」
シェフの口調がトーンダウンした。小澤さんは楽しくてたまらないといった表情。飲んで、食って、喋って、場を盛り上げて、ものすごいバイタリティーだ。彼の魅力が俄然俺に伝わり始めた。
「川西くん、あんね、シェフの娘の冴子ちゃんね、ミュージシャンの男との結婚反対されてね、家出しちゃったんだぜ。福岡に」
「やめろバカヤロー小澤てめえ」
この雑誌編集長小澤さんとは、4時間前に会ったばかりだ。コンビ名のお陰で、グルメ系の取材やロケが時々入る。そんな時は元料理人の相方が活躍するので、俺はただ旨そうに食べる人。相方がボケたらツッコむ人。このグイグイ行けない性格でよく芸人やってると我ながら感心する。最近はテレビ出演が目白押しだが、バラエティー的出番での成果を出せずになかなか辛いものがある。熱心なファンにさえ「平場弱」と呟かれる始末だ。取材が終わって水田は帰り、何故か俺だけが編集長に声をかけられた。
「なんかさあ、川西くんって、満足の行く性生活送ってそうでさ」
「ブッ」
思わずビールを吹き出す。テーブルを綺麗に拭いて、お手拭きをたたみ直す。
「川西くんの第一印象がそれよ」
「第一印象がそれですか?!」
「それでさ、エロい料理食わせたいなーって思ったのよ。この世にはね、女とヤるよりもエロい料理があるんだぜって…」
「はあ…」
飲み込みがたい論理だが、この人と過ごしたことがとんでもない刺激となった。雛壇座ったら俺より活躍しそうじゃねえか。今度の食レポで甘エビかイクラか春雨が出たら、「口の中がエロい」使わせてもらおう。その日の帰りはコンビニで、ビールと小澤編集長の雑誌を買って帰った。
「そしたら次に出てきたのが何だと思う?」
「はいはい!エロい食材って言えば魚介でしょ?ウニ」
「あ、凄い。正解。それではウニの上には何が乗っていたでしょう?」
「高級中華だからねえ…あん肝かキャビアかな?」
「正解。キャビアや。なんで分かるん。そのウニとキャビアをな、ボートみたいになんかの食材に乗せてんねん。なんかとは何や?」
「分かった…アワビ…」
もうまりちゃんは殆ど呼吸困難になって笑っていた。ベッドの上で、小澤編集長の雑誌を広げながら。二人寝そべって。まりちゃんはもはや涙をぬぐっている。
「おっかしい…何その料理屋」
「料理屋悪くないねん。あのエロいおっさんが悪いねん。もうすべてがそうとしか思われんようになるねん」
「だってさ…出てくるものほとんど精子と卵子じゃん…」
「そうか!だからエロいんや!さすがまりちゃん…エロは知性やな…」
その夜は、二人で涙が出るほど、横っ腹が痛くなるほど笑った。小澤さんには、もっとエロい話も勉強させて貰ったが、女のまりちゃんに話せるのはこんなもんだ。

#川西賢志郎
#和牛川西
#和牛川西賢志郎
#賢志郎に嫁を
#小澤さん
#イメージ
#植野広生
#dancyu
#編集長


下らない呟き第三弾ですけども、インスタには星野源妄想小説垢っていうのが山ほどあってですね、最近覗いてびっくりしたんだけど、星野源と長岡亮介と女の子で3pしてるし!私の駄文でも仔牛ちゃんを相当怒らせたけど、必然性あるエロだったと思うんですよね。←まあ所詮エロですけどw。まりちゃんも賢志郎も大人なんで、エロ無しでお付き合いするわけが無い。かなり良心的な話だったと思うんだけども。ちなみに星野源のエロ妄想は#源能小説 っつうらしいですよ。上手いことゆう。

#川西賢志郎


黒澤明が、一本映画を撮り終えると、あんなに濃密に付き合っていた人物(役柄)が忽然と消えて、二度と会えなくなるのが不思議って言ってましてね。世界のクロサワにエロ雑文家の気持ちを重ねちゃダメだけどw、鴻巣にまりちゃんちがあって賢志郎がいたとか、まりちゃんの実家の客間には賢志郎が寝たとか、実際にあったような錯覚が頭に残ってて、変な気持ち。ラフマニノフはまりちゃんが好きな曲で、賢志郎が街なかで聞いてまりちゃんを思い出すんだけど、ラフマニノフを聞くたびに私が「あー、まりちゃんと賢志郎の思い出の曲」って、いや違うw

そんなんで、ずるずると賢志郎の写真を上げたりしてます。悪しからず。

#川西賢志郎


仕事行ったり、家計簿付けたり、本を読んだり、夫とビール飲んだりする平凡な生活です。

賢志郎とまりちゃんのいない毎日が退屈。

#川西賢志郎


読んでくれた皆さんさよならー。
近い内に鍵開けます。


「木崎さん、重いでしょ、半分こしましょ」
ゆきちゃんはそう言って、学生の提出したレポートを半分取っていった。ここ数週間、学部生相手のティーチングアシスタントをしている。ひとコマ4,000円と、近隣の大学よりもかなり高い時給で、授業に関わる雑用を請け負っている。その教室で、会う度に磁石のようにくっついてくるのが学部4回生バンギャのゆきちゃん。
「あのー私、昨日バイト終わってスーパー銭湯行ったんですよ」
「うんうん」
「そしたら、銭湯って日替わりの湯ってあんじゃないですか」
「あるね」
「昨日“バンギャ風呂”だったんですよ」
「えっ」
爆笑。ゆきちゃんはいつも話題を提供してくれる。ハイレベルなネタがあった時は、本職の賢志郎にも知らせる。バンギャ風呂のセンスは秀逸だし、それを引き寄せるゆきちゃんの力も凄い。個性の逸脱したこんな子がゴロゴロいるから大学は面白い。それに引き換え、高校はやっぱり息苦しい。個性を伸ばせというお題目とは裏腹に、基本は個性の芽を徹底的に摘む世界だ。黒髪厳守、スカート丈厳守、化粧禁止、パーマ禁止、ネイル禁止。教師からの締め付けのみならず、生徒同士の出る杭を打つ風土。大学に入ってみると、あれは夢だったのかと思うほどの画一化された世界が高校だ。自由で自己責任の世界、大学。ゆきちゃんはアッシュヘアーにカラコンに黒ネイルにベレー帽で、バンギャル臭を辺りに撒き散らしている。
「木崎さんと話すのが今の私にはめっちゃ癒しなんです。こんな育ちの悪い私なんかにも優しくて、もうマジ尊敬してます」
廊下を歩きながらの誉め殺し。そんなまっすぐに人を信じて物を言わないで。ゆきちゃん。
「しかもあんないい男の彼氏がいて…はあ、もう勝ち組過ぎますよ…」
賢志郎との件は、大学ではすっかり周知の事実だったが、私が認める訳にも行かないのでひたすら黙ってスルー。ずっとスルーしてたら面白いもので、そのうち違う子が賢志郎の彼女だと噂され始めた。でもゆきちゃんは、賢志郎の彼女は私だと確信している。曰く私と賢志郎が付き合っていることにはリアリティーがある。それにしても大学構内でのハグ事件、テレビでの彼女いる発言など、その度にSNS界隈を荒れさせる賢志郎は、意外に会社の問題児だろう。というか、会社が賢志郎の動向に反応せざるを得ないくらいに存在感が増している。女子からの人気はピークかもしれないが、まだまだこの世界の入り口にいるということを賢志郎は考えている。その先は私と歩むんだ。そうすれば拓ける地平もあるかもしれない。入籍は2か月後の9月吉日と決めている。またポロっと漏らしてネット大炎上にならないといいんだけど。ネット大炎上で賢志郎が病んじゃうのは困る。
「お邪魔しまーす、今日ね、バンギャのゆきちゃんがね」
「来た、バンギャのゆきちゃん」
玄関に入るなり喋り始めた私を、賢志郎は両腕で抱き止めた。私は暖かい胸の中で喋り続けた。
「うんあのね、ゆきちゃんが銭湯に行ったんだって」
「バンギャが銭湯って、もう早おもろいわ」
賢志郎が目を細めて聞いてくれる。優しい目。初対面の合コンで、この目に一目惚れしたことを思い出す。賢志郎は私の頬を両手で包んだ。
「まりちゃん、今日も可愛いな」
「うん、ありがと…」
賢志郎の綺麗な顔が近づいて唇が重なる。何度も味わうように、付いては離れを繰り返す。触れ合った舌が、賢志郎の唇につかまる。ゾクゾクと快感が起きる。もう何も考えられないほどの愛しさの中で、突然、私の中から思いもよらない衝動が沸き上がってきた。
「ねえ、賢志郎、乱暴にして」
乱暴にして。
傷つけて。
賢志郎の物だという刻印を押して。
賢志郎は一瞬、眩しい目をした。苦しいほど賢志郎を好きな今の気持ちも、いつかは消える。一緒に暮らし、子どもを育てて、やがて穏やかな愛情に変化してしまうのだろう。それは勿論幸せな話だ。長く続く家庭生活を思えば、恋は入り口に過ぎない。恋はいつか必ず失われると、あらかじめ分かっているものだ。今私が賢志郎自身に壊されれば、恋の姿だけが残る。そんなことは現実にはあり得ない。賢志郎に壊されるなんてことは起こり得ないけれど。賢志郎はすぐいつもの穏やかな微笑みに戻った。
「ええのそんなんして」
「して。お願い」
そこから特別な夜が訪れたわけではない。ベッドではいつもの賢志郎が優しく、大事に扱ってくれた。ただ二言三言、いつもと違うやり取りがあっただけだ。
「まりちゃん…」
「うん、もっと。壊して…」
「分かった」
こんなに夢中で恋をすることはもう二度とない。これ以上の気持ちがこの世に存在するとは到底思えない。賢志郎に夢中で恋した日々は、私の中に凍ったまま収められた。明け方、薄日の中、賢志郎の腕の中で両目をつぶると、涙が流れ、シーツに吸い込まれて消えた。

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#実在するバンギャ
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大学院に入って、まりちゃんは夜行性になった。夜は遅くまで本を読み、昼頃ボーッと起き出して、髪も服もぼっさぼさのまま大学へ行っているらしい。まあぼっさぼさでもまりちゃんの場合はカジュアルというかいい名前のスタイルなんだろうが。薄化粧だけして、ご飯も食べずに出掛ける。学食でA定食を頼んで、それがお昼ご飯。学食のおばちゃんとは仲良しで、黙っててもご飯少なめ、味噌汁には一味唐辛子が添えられて出てくる。ぼっち飯は余裕。大胆とか、ちょっとずれてるとか思ったことはあるが、一面で男気がある人だとは思わなかった。教師時代のコンサバファッションに身を包んだまりちゃんはもういない。10センチヒールで街を歩いていたまりちゃん。清楚なブラウスとふんわりしたスカート。朝帰りする時のまりちゃんは、ことのほか綺麗だった。昨夜の痴態など露ほども感じさせない佇まい。いつどうやって切り替わるのか、数時間後には教壇に立つ。まりちゃんの美しさが男子高生どもの目に晒される。憎いような、嫉妬のような感情が湧き、清楚なその佇まいをまた掻き乱したくなる。そんなまりちゃんはもういない。今日もTシャツにジーパンにショルダーバッグで出掛けていく。
「まりちゃん…勉強終わった?」
「うーん…ごめんもうちょっと」
さっきからこの生返事だ。まりちゃんは壁際の机に向かって勉強している。9時半。舞台を終えた俺が一目散に会いに来たというのに。いつもは俺の好物など作って待ってくれているのに。ソファーでゆっくりと睦み合うのが定番の流れ…なのに今日はパソコンに向かって生返事を繰り返す。ご馳走もお相手も無し。何だよもうこの扱いは。手持ちぶさたをビールとスマホで慰めるが、インスタも、ツイッターも、何も頭に入ってこない。インターフォンが鳴った。
「はーい、はーい」
まりちゃんがドアを開けると、若い男の声がした。
「あれー、長谷川くん?どうしたの?」
「あのー、ボスが、木崎さんにこれ届けてやれって…」
「あ、嬉しい!これなくて困ってたの」
「ね、家でやってると学校の文献が見たくなりますよね」
「そうそう、学校でやってると家の文献が見たくなるっていうね…どこでもドア欲しいわあ」
「工学部が開発始めたらしいですよ」
「いいね買お買お」
「2章んとこボスに突っ込まれたら俺ヤバイす…まだ文献当たれなくて」
「そこ突っ込まれたら私に振っていいよ。今夜中に終わるから…」
俺はイライラしてきた。何だ長々と。楽しそうに。俺とは今日まともに話もしていないというのに。おい、はよ帰れや長谷川。その後も何だかんだで居座った長谷川は、30分ほどたってやっといなくなった。
「ごめんね賢志郎…話し込んじゃって」
戻ってきたまりちゃんは、あからさまに不機嫌オーラを出している俺に気づいた。ようやく俺に関心が向いたのか。優しい声が今更過ぎて腹が立つ。
「あのね、同じゼミの長谷川くんがね、明日必要な文献届けてくれたの」
「ふーん、わざわざ…」
「大宮界隈に住んでるみたいだから、ついでよ」
「ふーん、こんな時間に…」
「ねえ、賢志郎」
「なに」
「妬いてる…」
後ろからまりちゃんが柔らかな体を寄せてきた。温もりが不覚にも嬉しい。でもこんなもんじゃ許せない。長々と俺を放置した罪は重い。まりちゃんは俺の胴体に細い腕を回してきた。
「妬いてま、せ、ん」
「なあんだ。妬いてないの?」
「妬いてない」
「妬いてくれたら嬉しいのに…」
俺の背中に身を預けて、小さく呟く。待ってた一言はそれだ。まりちゃんの体温が、胸の柔らかさが、薄いTシャツ越しに伝わってくる。胸苦しいような思いに、まりちゃんの手を握りしめる。
「まりちゃん…今日冷たいわ」
「冷たくないよ…」
「冷たい。勉強ばっかで全然かまってくれんもん」
ああ下らないことを言ってる。残念だ。人生最大のモテ期を迎えて、信じられないほどのモテ振りを謳歌しているというのに。モデルや、グラビアアイドル、キャバ嬢と言った華やかな女性からのダイレクトメールが日々届く。「川西を紹介してくれっていう子がおんねんけど」という話を毎日のように断り続けている。平たく言えば人気。とにかく人気。何を言っても何をやってもアホみたいに人気に繋がる。ところがそのカードは、まりちゃんには全くの無効。そりゃそうだ。人気は虚構。和牛の川西はどこにも存在しない虚像。
「まりちゃん…」
「ごめんね、賢志郎…」
俺の首筋に唇が触れ、小さく快感が起きた。振り返ると、大きな目が好意を湛えて俺を見つめていた。たまらない気持ちが溢れだしてくる。唇を重ねると、まりちゃんが小さな声を漏らした。分別盛りの大人なまりちゃんが、可愛いまりちゃんに変わる。
「長谷川はな、絶対まりちゃんに気があるで」
「そうかもね…よく送ってくれるよ」
「あかんそんなん、乗ったらあかんあかん」
「うふふ分かった。もう乗らない」
「なあ早く引っ越し…」
「うん、夏休みにね」
キスが上手くて包容力のある女の子。まりちゃん。いつも俺が追ってる。恋愛の醍醐味を味わっているのは、まりちゃんじゃなくて俺の方だ。
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賢志郎の憔悴ぶりは尋常ではなかった。まともに食べてないのは容易に想像がつく。ここのところの騒動は、賢志郎の口からではなく、ネットで知った。少し検索するだけで、そこには目も当てられないような惨状が広がっていた。賢志郎のおぞましいほどの不実が止めどなく書かれていた。文字は私を説得しにかかる。賢志郎が乱倫の限りを尽くしていると。賢志郎は道徳観の欠片もない男だと。ネットで賢志郎周辺が大荒れしていることは、前の同僚である添田ちゃんが知らせてくれた。添田ちゃんは、賢志郎との合コンをセットしてくれた恩人でもある。
「もう別れた方がいいかもですよ~。真理子さんまで火の粉かぶってるじゃないですか」
「別れたらって、そう簡単には行かないのよ。もう両家に挨拶行っちゃったんだもん」
「えまーじでー?!」
「私はそういうSNS系見ないからさ、見なきゃ何も起きてないと同じじゃない?」
「いやー、最近思うんですけどね、やっぱりネット見ない人が最強なんですよね。私なんか、ネットも現実も同じ重みで受け止めちゃいますもん」
「うん、特にさ、賢志郎みたい特殊な仕事してる彼氏のことはね、もう知らないに限るよね」
「悟りが凄いなー」
「まあねー」
そうは言いつつもさすがに好奇心には勝てなかった。その日は賢志郎の名を検索して夜が明けた。今週も賢志郎に呼び出されて寝たという女が呟いている。これが本当ならばアウト。本当でなくても、一緒にいるだけでこんな目に遭うのかと思ってうんざりしてくる。それにしてもさ、賢志郎、泣きたいのは私だよ。私はもっと平穏な人生を歩もうと思って生きてきたんだよ。
「まりちゃん…」
「おはよう、賢志郎…」
朝7時。朝日の中で見ると、随分やつれた面差しだ。多分私も同じようなものだろう。時にうなされる賢志郎の横で、私もろくにまんじりともしていない。
「うどん食べないで寝ちゃったね」
「ああ、そうやったっけ…」
「うん…」
「まりちゃん、ネットは見たん」
「うん、見たよ」
「……」
「今週、賢志郎に呼び出されて会ったっていう書き込みがあったよ」
「信じたん」
「…あそこまで詳細に書いてあるの読んだらね…有りうるって思っちゃう」
「そやろな…」
その後は沈黙が続いた。賢志郎はベッドの天井を見上げている。私はそれをじっと見て、次に何が語られるのかを待っていた。或いは語らないということもあり得る。信じられないなら終わりやな。と、全てをゼロにするやり口も賢志郎は持っている。どう出るんだろう。
「俺は」
「うん」
賢志郎は布団の中で、私の手を痛いほど握った。長い沈黙の後、何を言って何を言わないか、何を認めて何を認めないか、整理がついたのだろう。
「そういうことやってたんや。昔は。でも、まりちゃんと会ってからはない」
短く、きっぱりと言った。
「うん、信じるよ」
私も簡単に答えた。ここで言葉の応酬をしても不毛だ。
「幻滅したやろ」
「いや、知ってたから」
「知ってた…」
「うん」
賢志郎は少なからずショックを受けている様子だ。賢志郎の世界では常識の、いわゆるカキタレというやつ。おそらく男の芸人殆どがその恩恵に預かっているのだろうが、私のような外側の人間と共に生きようとする時、齟齬が生まれる。賢志郎が意識を改めるか、私が受け入れるか。賢志郎は私と出会って改めたと言うのだ。信じよう。信じるしかないだろう。
「そういうことはもうないって、賢志郎が言うなら信じるよ」
「うん。絶対ない。もうまりちゃんがいなくなるのは困るもん」
一週間ぶりに唇を重ねて、賢志郎は漸く微笑みを見せた。やつれているのがまた色っぽい。亡国の王子様。
「約束よ」
「うん、もう、まりちゃん怖いもん」
「うふふ、私は怖いよお」
「まりちゃんのお父さんも怖いし…」
「ふふ、殺すって言ってたね」
「あれは本気や」
「そうね…殺す。かもね…」
もしもお父さんに会わせる前なら、賢志郎は逃げ出したのかもしれないとも思う。蝶よ花よと育ててくれたお父さんから正式に私を譲り受け、その時登場した名言「真理子を悲しませたら殺すからね」賢志郎は背筋が冷えたことだろうが、私はお父さんありがとうと内心ガッツポーズを連発していた。そのくらいの重石がなければ、私と賢志郎の生きる世界の溝は埋まらないだろう。現に今回の一件でも、お父さんの言葉が私と賢志郎を繋ぎ止めてくれた。
「ねえ、うどん食わして…」
そう言いつつも唇を重ねてくる。頬に、耳に、首筋に、唇は移動して、私の脳の動きが緩慢になる。美しい賢志郎の顔に生気が戻っていた。
「賢志郎…うどんは」
「うどんは後やな」
甘美な空気に入り込んでくるうどんという単語がだんだん笑えてくる。
「なに」
「だって、さっきからうどんうどんて」
「ん、フッ。確かに。食わんからいつまでもうどんが出てくるんや」
「ねえ、もう食べなさい」
「うん、分かった…」
言いながら、賢志郎は私の胸のボタンを外し始めた。

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#私にもDM来ました
#多分仔牛ちゃんから
#頭おかしいんですかっていう文面で
#内容お気に召さなかったですかね
#星野源妄想小説の方が強烈よ
#とりあえず申し訳ない
#ごめんね
#仔牛ちゃん


「ちょっとなあ川西、よう考えや。黙っとけばまだまだ稼げたところへな、お前のミスでファンがぎょうさん逃げたんやで。稼げた筈のもの稼がんかったのんは損失や。お前らは他の同期よりも売れとったかもしれんけどな、見込みの稼ぎを出せなかったいう事実は重いで。軽率やったぞ。この分やと単独やってももう埋まらんかもしらんで。会社はな、慈善事業やないんや。したい仕事が出来んようになってくるで。そらな、お前らの稼ぎで花月の柱全部立ったんやったらこない言わんで。しかし、お前らくらいの実績であんなんしたらあかん。まだまだ伸び盛りや。舞台でもテレビでも、実力不足を感じることも多々あるやろ?ファン以外にはまだまだ浸透しておらんのに、ファンを足蹴にしたらあかんわ。確かにな、お前らのネックの一つはファンや。お前らをアイドル扱いして追い込んどるのはファンやな。しかしな、だからっちゅうてファンを切るのは当たらんわ。手詰まり感はファンのせいやない。自分らの力不足のせいや。アイドル扱いしたのもファンのせいやない。違うか?男の支持を得られんのも自分らの責任や。そら芸人やからな、自分の価値をどうリフレッシュしてどうやってランクアップさせるかゆうのは大きな課題や。でもや、本物ならな、ファンを繋いだままリフレッシュしてランクアップも出来るはずや。とにかくな、お前の状況でファンがギリギリ許すのは結婚発表や。女いてますはアウトや。出待ち連中は彼女になれるかもしれんから出待ちしてるんやで。そこの可能性おまへん言うたらあかんよな。分かるやろ…」

俺は東京の社員に呼ばれて、こてんぱんに説教された。精神論の内はまだ良かった。その内に俺達の技術的な部分にまで話が及び、閉口した。とことん酷使してくる会社だが、仕事も私生活も、縛られることなく自由にやっていた。しかしひとたび会社の利益を損なえばこうなるんだということを、今身をもって知らされた。利益を全く産み出していなかった時代には却って会社も優しかった。少し稼ぎが出始めるとこうか。どうもその理不尽に納得が行かない。男の支持がないという言葉はきつい。重々分かってはいたが、他人に言われたくはなかったし、面白ければゆくゆくは男の支持もついてくると楽観していた。しかしこの一件で、俺はネットで驚くほど叩かれ始めた。あることないことが流れ、過去の悪行が現在のことのように語られる。「川西さんから昨日誘われたよ」「川西さんと明日会うよ」「彼女いるのにクソだな川西」「遊びたいなら彼女いるって言うなや」これをまりちゃんが見るとしたら。彼女の両親が見るとしたら。怖い。人気というものの正体はこんなものだったのか。劇場に人が来なくなる。単独は売れ残る。列をなしていた出待ちがいなくなる。まりちゃんがいなくなる。浅い眠りは悪夢と共に訪れては消えた。その日の夜から、飯が喉を通らなくなった。酒をあおってピーナッツ数粒を噛って無理矢理寝る。胃が痛い。何か食わなきゃ。でも全く腹が減らない。こんなんで漫才ができるかよ。目がますます冴えてくるからもう一杯、またもう一杯、こうしてアル中になっていくのかな。潰れてこの世界から消えていった先輩の姿が脳裏に浮かぶ。なりたくない。一方で、抗うつ剤をラムネみたくガリガリ噛って周囲をドン引きさせながらも、幾度も窮地を越えてきた先輩の姿も浮かんだ。病気も、不祥事も、アンチの存在も全部ネタにして、全部舞台に乗せて、全部笑いに替えて、あそこまで出来たら最強だ。そうだ。ああやってでも生き残らなければ無意味だ。ここで自堕落になったら一つ席が空いて、誰かに座られてしまう。そんなもん絶対に譲るか。落ち着け、絶対に負けない為には寝て、食べて、いやもう無理だ。これ以上は何をやったって無理だ。

「おーい、賢志郎…けんしろー…」
「ああっ!」
ガバっと起き上がると、まりちゃんが傍らにいた。驚いて俺を見ている。一瞬、まりちゃんがいる状況が飲み込めない。
「あぁ…賢志郎、うなされてたよ。汗びっしょりになって…」
今日は金曜日だったのか。まりちゃんは毎週の約束通り来てくれたのだ。時計はもう夜中の1時を指している。ずいぶん遅いけど、来てくれた。ここ数日、まりちゃんに捨てられる妄想に取りつかれて頭がおかしくなっていた。まりちゃんは俺の服を着替えさせて、汗を拭いてくれた。この部屋に人がいることが嬉しい。ため息をついてみて漸く、今まで浅い息をしていたことに気づく。
「まりちゃん…俺、腹減った…」
「あら、うどんでも作ってあげようか。こないだ買っておいたんだよね…」
「うどんか…すごい食いたい…」
台所に立ったまりちゃんを見てから、また布団の上に転がった。つゆの匂いが漂い、猛然と食欲が湧いてきた。涙が出た。ああ、疲れた。疲れ果てたよ。
「賢志郎ー、出来たよ…」
「……」
「賢志郎、おいで…」
「もう…起きれない」

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「あ、お母さんこの間はありがとうね。お父さんにもお礼言っておいて。お父さんが川西さんに色々言ってくれて助かったから…まあね、色々と心配なことがあるからね」
「芸人だものねえ。川西さんは感じよかったけどね、やっぱり心配してるわよ、お父さん」
「私だってそれで最初はずっとプロポーズ断ってたんだけどね、腹をくくったの」
「芸のためなら女房も泣かすって、まさか川西さんがそうとは思えないけどね」
「でもね、そういうところあるのよ。実はすっごく旧弊なね」
「あらそうなの?お父さんも偉そうに色々言ってたけどね、なんでああやって言えるかって言ったら、自分もとんでもなかったからよくわかるのよ。お父さんなんてね、うちに女の人が訪ねてきたことあったのよ。」
「え、何、修羅場?」
「違うわよ、そんなカッコいいもんじゃないのよ。木崎さんてどちらのお部屋?ってね、若いお姉ちゃんよ。だからね、お父さん、結婚してるの隠して遊んでたのよ。その女の人もね、私がお兄ちゃんと真理子連れて玄関掃除してたから、多分管理人だと思ったんじゃない?」
「あはは、最低ね!お父さんもやるわねえ…」
「でしょ?私もよく我慢したわよ…」

「あ…」
賢志郎の物が固さを失っていった。私の中に溜まっていたものが流れ出ていきそうになる。絶頂感の後の気だるい時間。上に乗った賢志郎の荒い呼吸が寝息に替わり、体が重みを増している。
「ねえ…賢志郎、ティッシュ取って…出てきちゃう…」
「ああごめん、ちょっと寝てた…」
「きゃーこぼれる」
「ちょ、ちょ、我慢して」
賢志郎が素早く机の上の箱ティッシュを取ってくる。まず私を拭いて、それから自分を。賢志郎がめちゃくちゃたくさんティッシュを引き抜くのが毎度おかしい。
「うわ、またついた…くっそ…下手やな」
「どれどれ」
「うわやめて」
私の実家に挨拶を済ませた帰り道のこと、駅のホームで賢志郎はおもむろに言った。
「もうさ、着けんでええんとちゃうんかな」
「ん?何のこと?」
「いや、コンドーム」
思わず吹き出した後、周りを見回した。何故か営業用の極上賢志郎スマイルで私を見てくる。コンドームと爽やかさの落差。幸い辺りに人はいなかった。
「んー…すぐに赤ちゃん出来ていいの?賢志郎は」
「どうやろ…まりちゃんは?」
「私は…お母さんになってみたい」
自分でも意外な言葉を発していた。私達は線路を向いて、他愛ないことのように話していた。
「へえ~、そうだったん?」
「うん、そうみたい…」
教師をやっていた頃、キャリアが中断されるから子どもはいらないって漠然と思っていた。ところが私の周りにいる大学の教員や大学院生は、面白いように研究と家庭を両立していた。大学教員は高収入だ。財力に物を言わせてベビーシッター、家政婦を駆使する先生もいる。子どものいる院生もちらほらいるが、学部生と違って出席には寛容だ。研究さえしっかりしていればその辺りは不問になっている。いつしか私は彼女達に憧れを持つようになっていた。独り身で、或いは子どもがいない人が研究をガツガツやれるのは当たり前だ。私はどうせなら全部を知りたい。家庭も研究も欲しい。私がお母さんに愛されたように、私も自分の子どもを愛したい。
「じゃあ今日からナマでやれるんや…いてっ」
「あと3個余ってたわよ」
「え、もう着ける気せえへんな…相方にやるか」
「あはは!怒るんじゃないの…」
「言うとくけど俺はLサイズやからな!とかな、あいつすぐ張り合うからな」
「ああ、言いそう~…」
笑い合って、賢志郎が自然に私の手を握った。
「誰か見てるかもよ…」
「ええよ、別に」
「文春に載るかも…」
「そんなん本望や」
「うふふ、そのくらいのニュースバリューあるよ。今の賢志郎なら…」
私は賢志郎の肩にもたれかかった。それも賢志郎は抗わなかった。

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「あれ、これ俺のTシャツやん」
「あ、うん貸してー」
「ちょっと、パンツまで俺のやん」
「あ、貸してー」
「貸してちゃうでしょ。もう借りてるでしょ」
「あはは、借りてまーす」
風呂上がりのまりちゃんは、俺の足の間に収まってくつろいでいる。俺のTシャツに俺のボクサーパンツまではいて。俺のものをいつの間にか何でも着ているのが可愛い。好物のポリッピーを食べながら発泡酒を飲み、テレビを見てクスクス笑っている。あまりにも可愛くて、何時間でも見ていられそうだ。まりちゃんは論文が書き上がるまで本物のビールを断っている。アルコール自体は断つつもりはないらしい。都内の大学に通う彼女は、律儀に毎日鴻巣から通っていた。俺の家から通う方が近いのに、泊まっていって欲しいのに、週末以外はなかなか誘いに乗らない。
「なあ、なんで急に結婚する気になったん」
「あのね…白昼夢を見たの」
「えっ」
「一瞬ね、自分の未来が見えたの。死ぬまでの未来が全部一直線上に」
「何々」
「結婚式をあげるでしょ、郊外の大きな白い家に住んで、子ども達と庭でキャッチボールしてね、入園でしょ、入学でしょ、子ども達が育って、孫が出来て金婚式、それからお葬式って、全部見えたの。それがね、賢志郎がずっと隣にいて、すごく楽しそうだったの」
「うん」
「それでね、そんな人生を送ろうとしていない自分がバカなんじゃないかと思ったの。ある日突然ね」
「うん、楽しいと思うよ。それは…多分…絶対」
美しくて賢いまりちゃん。
野良犬のように生きてきた俺がこんな人を奥さんに出来るとは、20代の頃は思いもしないことだった。何をどうやってみても売れない、バイトと舞台でただただ時が過ぎていく。腹を減らして街をうろつく野良犬がいつからか、気づけばトンネルから出て脚光を浴びていた。人気というものに骨抜きにされそうで怖いと思いながらも、もう進むしかない。
まりちゃんは俺の太股を枕に、いつの間にか寝息をたてていた。丸くなって、猫みたいに。

再会してからしばらくは、まりちゃんの体が変わったような気がして、抱く度に確認する気持ちが拭えなかった。自分は風俗へ行ったり、ファンを釣り上げたり自由にやっていた癖に、まりちゃんには固い貞操を求めてしまう。しかし俺から言わせれば、風俗やファンに心は持っていかれない。まりちゃんが他の男と寝る場合とは全然意味が違っている。大学院に入るよう執拗に誘っていたという教授。もう絶対にまりちゃん狙いに決まっている。あの話を聞いた時、俺は鋭かった。いつも公明正大、後ろ暗いところの一つもないまりちゃんの態度に、どことなく嘘の匂いがしたのだ。でもまりちゃんは大学へ戻った。しかも古巣の近代文学でなく、その教授の古代文学ゼミに専攻を替えたのだ。アウトでしょ。ほんと、その罪に比べたら俺の遊びなんてたかだか性欲の産物であって、可愛いもんだと思う…。
「あーっ、ん…」
薄い繁みからのぞく尖塔を吸う。風呂上がりのいい匂いがする。まりちゃんは音ですごく興奮する。固くなった尖塔を、唇で挟んで吸い上げると、チュッとたまらない音がする。
「ああ…あぁん、気持ちいい…ねえ、指も、欲しい…」
そう、こういう時。前はこんなこと言ったっけ。指が欲しいとか大胆な。いや、まりちゃんはまあまあ大胆だったか。判断の基準などないから考えたって仕方ないのについつい思ってしまう。まりちゃんは今日も見事なほど、快感に没頭している。
「ねえ、賢志郎ってば…あ、ん、んんっ…」
指を受け入れて、まりちゃんの背中がしなった。中も、外も、もうトロトロに準備は整っている。
「ねえ…ここも…」
まりちゃんは、自ら繁みをかき分けて尖塔をあらわにした。なんてエロい。
「なに…舐めて欲しいの?」
「うん…舐めて欲しいの…」
「エッチやな…指も、舌も欲しいの…」
「うん…そう…」
尖塔を唇と舌で弄びながら、濡れて柔らかい通路に指を送り込む。まりちゃんが身をよじってか細い声を上げる。
「あっ、やあ…イッちゃう…」
「ええよ、イキな…」
すべすべの太腿が、俺の顔を挟む。まりちゃんはもう声も出ないまま、身体を固くして達した。荒い息をして涙を浮かべているまりちゃん。身体が柔らかくなる頃合いを待って唇を重ね、トロトロの入り口からゆっくりと入っていった。暖かいぬかるみに包まれる、たまらない生の感触。
「泣いちゃって、まりちゃん…可愛い」
「だって…気持ちいい…」
「まりちゃん凄いな今日は…エロくて…」
「うん…いっぱい突いて…」
「ナマだもん無理やそんなん…」
湿った柔肉の感触。繋がったまま柔らかな胸を揉みしだくと、きゅっと締まるのがよく伝わる。これはもう無理。
「もう出る…」
「…出して、いっぱい…」
まりちゃんの言葉を潮に、もう止まれなくなった。根っからの慎重派で、女の子に何と言われようと避妊を欠かしたことがなかった。だから生の気持ち良さなんて、知っているようで知らなかった。それがこんなに気持ちいいなんて、甘かった。俺はあえなく、まりちゃんを満足させることなく終えてしまった。

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#和牛川西
#和牛川西賢志郎
#賢志郎に嫁を
#現実になりそう
#参考
#小沢健二
#それはちょっと
#沼田真佑
#今回はエロ多め
#削除されませんように


お父さんは気合いの差か、めちゃくちゃ酒が強かった。俺も相当強いつもりだが、お父さんの矢のようなお酌で、不本意ながら潰れた。いや、潰された。断れない酌をするって、新歓コンパで1年生を潰す手口じゃねえか。せっかくの出羽桜はもっとじっくり味わいたかった。
「賢志郎、賢志郎?」
ノックとともにまりちゃんの声がする。トイレみたいに狭いなここは。いや、トイレだ。立ち上がると、四方に体がぶつかってまた倒れた。眠いな。
「ちょっと!賢志郎?!…」
「おやすみまりちゃん…」
「ちょっと待って、待って…鍵開けてよ~…」
鍵を開けたら、可愛いまりちゃんの顔が見えた。手を差しのべられるが、まりちゃんに俺を立ち上がらせられる訳がない。
「んーもーバカッ!自分で立ってよう…」
いや確かに。いつまでもこんなんしてたらあのおっかない親父がまた出てくるかもしれない。急に正気づいて立ち上がった。
「客間にお布団敷いてあるからね…こっち…」
手を引かれて客間に入ると、俺は思いっきり大の字になって布団に転がった。布団は一組か。まりちゃんとは遠ざけて一人で寝かす気か。あの親父め。
「まりちゃんごめんなぁ。何か支離滅裂になって…」
「もう全部お父さんが悪いのよ。でも面白かったわ…」
この客間で、今日初めて二人っきりになったんだ。まりちゃんを引き寄せて腕の中に収めた。柔らかい髪が俺の頬をくすぐる。キスをしても、快感に霞がかかったようだ。飲み過ぎたな。
「なあまりちゃん、後で夜這いして」
「うん、いいよ…」
「飲みすぎて勃たないけど、来てね」
「そんなら行かないわ」
「嘘やーんもう…」
ちゃんとした結婚の挨拶が出来たのかどうかはもはや定かではない。気づけばお父さんは呂律の回らない口で、まりちゃんへの愛を滔々と語っていた。同じ一人の女を愛している。俺も、まりちゃんの父親も。まりちゃんもこれまで色んな男と付き合ってきたことだろうが、父親から正式に譲り渡しを受けるのはこの俺なんだ。結婚する者しかその権利を与えられないんだと思えば感慨深い。蝶よ花よと丹精込めて育てた真理子をみすみす、というくだりで「丹精込めたのは私よ」とお母さんが入ってきた。そこからは女性二人がお父さんのあれやこれやを責めるやら追及するやらで、俺が溜飲を下げる展開となった。
「川西くんね、君、女房を貰って楽になるとかそういう考えは当たってないよ。家庭をちゃんと運営するっていうのはね、女にとっても男にとっても本当に片手間に出来ることではないんだよ。詰まるところ人間関係だからね、心を砕かなくては破綻する。だからこそ家庭を持ってようやく一人前だと言われるんだよ。な、立派な家庭人であることも、立派な社会人の条件だからね。君も芸術を生業としているから分かるだろうけど、クリエイティブとかオリジナリティーとかいうものは、日々のルーティーンがしっかりこなせてこそ生まれるものなんだよ。そして、ルーティーンというものは、共同生活の中から生まれるんだよ。何言ってんだって顔だなその顔は。まあ君を信じるからね。真理子を頼んだよ」
「はい」
「酔いが醒めただろ」
「はい」
「俺はもう寝る。お母さん、川西くんに布団敷いてやんなさい。客間にね、客間だよ…」
「ハイハイ、おやすみなさい…」
「真理子を悲しませたら私は君を殺すよ。ははは。じゃあおやすみ」

#川西賢志郎
#和牛川西
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#賢志郎に嫁を
#参考
#内田樹
#お父さんイメージ
#土井善晴


「なあ、結婚の挨拶はスーツ着てくの?普段着でええの?」
「なんやて?!結婚の挨拶?」
「おい、声がでかいねん」
「ごめん、え、まじでそういうこと?」
「そうや、だからさ、スーツで行くもんかさ、ほら、ちょっと良さ目の普段着でええとかさ」
「俺はなー、スーツで行ったで。絶対安全やろそれが」
「やっぱそうか」
「そうやで。お父さんは年で言うたら会社の重役クラスやろ。ほんだらそういうとこめっちゃ見よるで。人事査定や。そこは嫁さんにもお母さんにも見えない男同士の世界や」
「ビビるわ…」
「ほんまビビるよ。なんでお父さんいる子選んでまったんやろと思うくらい、前日までずーっとビビってたもん」
「やろなあ」
「あ、でも賢ちゃんな、あの青いスーツは駄目やで」
「あ、駄目?」
「駄目や。あんなほっそいズボン、やすきよやないんや。着ようとしてたんかい」

「どうぞー。お入りになって」
「あ、初めまして…川西と言います。今日はお邪魔いたします…」
「あらあら、遠い所を…真理子が大変お世話になってましてねぇ…あらー、本当だったのねぇ…テレビで見る人だわ…」
まじまじと見られて言葉の返しようも無い。ロケで会う街のおばちゃんなら軽口も叩けるのだが。まりちゃんのお母さんは何とも言えず上品な佇まいで、この親にしてこの子ありという説得力を感じた。白いエプロンの裾に薔薇の刺繍。
「ちょっとやめてお母さん、緊張させないであげて…」
お母さんが丹精したんであろうバラのアーチをくぐり抜け、前庭の敷石に導かれて歩くと玄関に着いた。
「お父さんは?」
「書斎よ」
「ご機嫌はどう?」
「うん、ここんとこはやっぱり変よ。川西さん、うちのお父さんちょっと変だけどね、おかしなことは言わないから、安心してね」
「あ、はい…」
「変だけどおかしなことは言わないって」
「それも変ね」
美人親子がコロコロ笑いあっている。セレブな雰囲気だ。お父さんは書斎にいるって。そもそも家に書斎があるって。居間には、重厚な低音を出しそうなスピーカーが床置きされている。
陶器の少女像とか、壁際にはピアノ、大きな観葉植物、白いレースのテーブルクロス。確かにこの環境なら、いつクラシックの名曲について聞かれてもおかしくない。不安に思いながらも、この面白い状況をメモしたいという衝動に駆られてもいる。
「お父さーん、真理子と川西さんが来たわよー」
お母さんが廊下まで呼びに行った時、まりちゃんが囁いた。
「やあねえ勿体つけて。チャイム聞こえてるんだからすぐに降りてくればいいのにね」
「ははは…」
そうやなとは言えない。階段を降りてくる音が聞こえ、居間にお父さんが登場した。もはや緊張も極まった。結婚てすごいな。最初の関門でこんな思いをしなきゃならないんだ。大人の階段登るってこういうこと?まりちゃんちの次は俺の実家だ。入籍と、式のこと、引っ越しと手続きがまだまだ続く。うんざりか?いや、うんざりしている自分も含めて面白い。

「ほいであれは言うの?お嬢さんを下さいってやつ」
「あー、あんなあ、俺はそれ言うの封じられたんやで。お父さんが登場していきなり、二人は結婚するつもりかい?って聞いてきてん」
「そういうのもあんねや」
「お父さんは笑いに包んでまあまあ痛めつけてくるよ。やっぱ正直、可愛い娘を取られるっちゅうんで恨み骨髄なんやろな」
「そうなんやなぁ」
「そこ越えたらあとはもう楽勝よ」
「うん、頑張る」

「川西くん、君の仕事はな、正直言わせてもらうと、安定した職業では無いよな」
「はい」
「しかも人気商売でね、色んな誘惑があるということだよな」
「はい…いや、はい」
「そんな世界の違う君がね、普通の生活を送る真理子とやっていくのは相当難しいと私は思っているんだよね。そこのところどう考えているのか、ちょっと聞かせてくれないか?」
「は…はい…」
脂汗が出てきた。こんな直球投げてくるか。お父さんの表情を見るに、今日しかないと決めての渾身の直球という気がする。まりちゃんやお母さんが、お父さんたら~なんて入ってくれるのを期待していたが、ない。これはまずいことになった。じっと聞いているまりちゃんの沈黙も怖い。よし言ってまえ。でも失言しませんように。
「僕は芸人で…自堕落な生活だったんですけど、そういうのが芸に全然いい影響を及ぼさないなって、最近分かったんです。真理子さんといることで、本を読んだり音楽を聞いたり、これまでしなかったようなことをするようになって…自堕落はひとときのネタにはなるけど、積み重ねにはならなくて、でも真面目なことは積み重なっていって面白いことに気づいたというか…ちょっと、具体的にはどういう生活になるか正直予想もつかないんですけど、真理子さんと真理子さんの仕事を尊敬していますから…だから」
「川西くん」
「ハイッ」
「飲もう」
「はっ、い…」
「お母さん、出羽桜の大吟醸持ってきて」
「いいお酒ね。ハイハイ待ってて下さい…」
背中が汗だくだ。討ち死にはまぬがれたのか?それにしても出羽桜の大吟醸に、まりちゃんちで出会えるとは。やっぱりこの子は俺の女神だったんだ。

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「ああ…緊張すんなあ…」
賢志郎は電車の外を見て大きく溜め息をついた。身体中に憂鬱が行き渡っている。私は読みかけの本を伏せた。
「今日はやめとく?別にいいよ。仕事が入ったとかねえ」
「いや、それはあかん。印象が悪くなって次ん時に倍緊張するわ」
「なるほどー…」
「なあ、何かちょっとさ、お父さんの言いそうなこと言ってみて」
「そうねえ、えー、川西くん、最近は何の本を読んだんだい」
「え、嘘やん」
「好きな指揮者は誰だい?好きな演奏家は?」
「ちょっと、ホント?まりちゃん…」
それにしても、テレビや舞台で、どんな大御所とも物怖じせずに渡り合っている賢志郎が。如才ないを絵に描いたような賢志郎が。たかだかうちのお父さんと会うくらいで鬱になっている。面白くてニヤニヤしてしまう。私の田舎に向かう電車。賞レースが始まる前に結婚したいという賢志郎の言葉にあっさり従った。もう私は、別の人間じゃないのかというくらいあっさり結婚に合意した。愛する人から愛されているのに人生を共にしない、という傲慢を悔い改めただけ。
「まりちゃん、結婚しよ」
ベッドの中でこの半年のことを何でもかんでも報告し合い、空白を埋めきるほどお互いに喋りまくった。眠さと安堵の中をたゆたう私に賢志郎が言った。不思議なタイミングで言う。
「うん、いいよ…」
「あら…」
「指輪とかいらない…結婚式もなくていいよ…」
「ほんま結婚に夢ないなぁ」
「いいの。賢志郎さえいれば他に何もいらないの…」
「あ、それ俺もね」
「何その雑な乗っかり方…」
笑って目が冴えた。あの日、賢志郎が私をまた見つけてくれて、元の場所に戻してくれた。あんなこと、普段は出来る人じゃないのに。気が動転した私は黙って立ち去ったが、夜半、電話をかけた。去る者は追わずの賢志郎が、ちゃんと意思表示をしてくれたことに応えたかった。やっと賢志郎に会える。ほんの不注意からうっかり手放してしまった賢志郎。あれ以来、眠っているのに眠っていないような、起きているのに現実じゃないような、そんな生活をずっと送っていた。今日からは眠れる。長距離のタクシーの中、私はずっとまどろんでいた。
「お客さん、あのマンションですか?何か変な男がいますよ。大丈夫かな…」
賢志郎のマンションに近づくと、首を伸ばしてこっちを見ている人影があった。運転手が不審がったのは、グレーのもっさいスウェットを着た賢志郎だった。お蔵入りした筈のだっさいスウェットをまだ着てる。賢志郎らしくて涙が出そう。
「あ、大丈夫です。あれ彼氏なんで」
「あ、これは失礼、何かちょっと」
「ふふ、何かちょっとですよね」
腕組みして寒そうな賢志郎が、はにかんだ笑顔で手をヒラヒラさせている。ダサいスウェットにサンダル、これぞ賢志郎というスタイル。
「待って、待って、まりちゃんはええから。俺が払うから」
目の玉が飛び出そうな料金を受け取って、嬉しそうな運転手を乗せてタクシーは去った。
「あのおっちゃん、今日の売り上げで一週間は寝て暮らせるで」
「うふふ、そうねぇ…」
「来てくれてありがとう」
「ん…」
「ちょっと痩せたやん」
「ちょっとよ」
エレベーターの中、肩を抱き寄せられた。賢志郎が顔を近づけてきて、寸前で止まった。
「なぁに?」
「うん…キスしてもええんかなと思って」
「ん?何?」
「えーとね、まりちゃんはまた、俺の物に戻ったの?」
「うん、戻ったの…」
どれくらい外で待ってくれてたんだろう、繋いだ指が冷たい。懐かしい唇の感触。味わっては離れて、その度に音がする。ベッドへ直行すると、首筋に、鎖骨に、胸の膨らみに優しいキスを与えられながら、一枚一枚服を剥がされていく。
「おっぱいは痩せてへんな…良かった」
「おっぱいの心配してたの」
「もうそれだけが心配で」
「ふふ、もうバカね…」
賢志郎は両手で膨らみを包み込み、先端に暖かい唇をつけた。
「あっ…」
しばらくぶりの快感に、思わぬ声が出る。乳首を吸う湿った音。身体にも、脳にも、刺激が強過ぎる。愛撫が進むスピードが早い。とろとろの部分がもう口づけをされている。繁みからは尖塔が見つけられ、甘く噛まれる。
「いや…あん」
「まりちゃんもう、入れたい」
「うん…」
「まりちゃんの好きなんもっとしてあげたいけど、もうあかん…」
「うん、入れて…」
指が絡み合う。組み伏せられる。硬くなった物が、入り口を探し当てて、その先端をゆっくりと埋めた。
「あっ、んん、あぁ…」
かなりの抵抗と共にそれが入りきった時、奥に痛みを感じた。
「あっ、ねえ待って…痛い…」
「どしたん、ごめん、乱暴だった?」
「ううん違う、ずっとしてなかったから…」
「…誰とも?」
「やあね…誰ともよ、勿論…」
「ああ、嬉し…心配してたんや…」
「賢志郎、妬きもちやきだもんね…」
「ああもう、まりちゃんが誰かとなんて、耐えられんわ…」
キスの息継ぎごとに囁き合う。賢志郎は優しく動いたが、しばらく使っていなかった部分は敏感だった。奥に当たる度に鈍く痛い。動きを止めて、賢志郎は私の唇を何度も塞いだ。
「ん、ねえ、動いて」
「ええの」
「大丈夫、痛いけどね、気持ちいい…」
あとは、甘い痛みが次第に快感に置き換わるばかりだった。

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「木崎さん、メシ行かないか」
「…いや、今日はちょっと、遠慮します」
「そうか、じゃあお先」
行かない。行ったら絶対にヤられる。
玉塚先生は、准教授から教授に昇任していた。46才で教授になるのはかなり早い出世だ。優秀なんだ。恩師で、今の指導教官でもあり、昔の彼氏。研究のモチベーションを維持するため、彼の場合は女が必要らしい。ここ数年、毎年1月に電話がかかってきて、大学院入試を受けるよう誘う。今回に限って話を受けてみたのは、賢志郎とのことを考えてだった。このまま鴻巣でフルタイムの教員をしていたら、結婚という答えには行き着かない。でももしも都内の大学で研究職につけたら、わがままな賢志郎に合わせて暮らすことも出来るかもしれない。なんて殊勝なことを考えて、仕事の傍ら、賢志郎に時間を割く傍ら、受験勉強を始めた。大学院の話をした時、賢志郎はムッとしていた。まさか玉塚先生と付き合っていたことを察知してはないだろうが、賢志郎は意外と鋭い。その教授っていくつなの?という質問が鋭い。お爺ちゃん先生なら白、若い先生なら黒。玉塚先生は賢志郎の想定より遥かに若かったのだろう。あと私のどこかに動揺を見つけたのかもしれない。更に不機嫌が増し、テレビのチャンネルを替えまくって喋らなくなった。後ろからハグしてほっぺにチューでもすれば事態が収拾出来ることもあるのだが、その時はめんどくさかった。以来この話には触れていない。8月の院試にはあっさり合格し、いつ賢志郎に話そうかという時に私達の仲は歪み、持ち直す気力もないまま12月のあの日を迎えた。
「自由恋愛なんだよ。古来から日本はさ、そもそも夫婦が一緒に住んでなかったんだから」
「現代の不倫の正当化に古代文学を使わないで下さい」
「一夫一婦制なんか、3日前に出来たみたいなもんでしょ?神話から見たらさ、そんなもん」
「うふふ、3日前ねえ」
「俺は神話で食っててさ、奥さんも主婦だから、神話に食わせてもらってるようなもんでしょ。そしたら彼女も自由恋愛に理解示してもいいと思うんだよね」
「もーじゃあそやって言ってみればいいじゃないですか?奥さんに」
「言えたらさ、ここで言ってないって」
思わず吹き出す。髭面のよく喋る大きな子ども。それが玉塚先生。7年前の彼氏だ。これでも古代文学会では飛ぶ鳥落とす勢いの学者なんだから、バイタリティーは多岐に渡るということか。焼けぼっくいに火はつかない。もう私は20歳じゃない。28にもなってタラタラ不倫していられるか。昔は、この研究室のソファで、先生と抱き合った。それはもう頻繁に。ドアを背に立たされて、先生の舌と指で弄ばれるのがお気に入りだった。そこから下着だけを脱がされて、デスクに手をついて先生を受け入れる。キスも、愛撫も、雰囲気も、先生の上手さ全てに骨抜きにされていた。口で男を満足させる時のやり方も教わった。快感には、身体だけでなく心も没入させることも先生が教えてくれた。気持ちいいことをたくさん教え込まれて、私の少女時代が終わったという気がする。今はこの研究室で、先生の秘書的なアルバイトをして小金を稼いでいる。素晴らしく高級そうな革張りのソファ。一体このソファで何人の学生が手にかけられたんだろうか。悪いオヤジの毒牙にかかる学生が無いように注意して見ているが、残念ながら、女子の方から進んで毒牙にかかりたがるのだ。毒をあおってそれすら栄養に変えられるくらい、若さっていうのは強いということだろうか。だからこのちょい悪おやじにも需要があるんだわ。私もそうだったように。
水筒にほうじ茶を詰めて帰ろう。先生の本棚から小説を拝借して、池の辺りで読書しよう。まさか、あそこで賢志郎と邂逅するとは夢にも思っていなかった。
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#賢志郎より鋼太郎の方がいい男のような


信じられない日だった。大学祭シーズンの6月。俺たちは同年代二組の芸人とともに、都心の有名私大に呼ばれた。講堂でネタをするという多少のやりづらさはあったが、それ以上に、若い大学生のノリの良さは凄まじく、爽快な営業終わりを迎えられた。次は大宮。タクシー待ちの玄関で主催の学生達と話しながら、大学らしい広々とした敷地を見ていた。大学の空気は自由そのもの。いいな。でもあのまま卒業してたら芸人にはならなかっただろうな。池の側に、象徴のように大きな柳が立っている。その下で本を読む女の子。いかにも大学という感じで、絵になっている。首を傾げて、髪をかきあげながら読む姿。ノースリーブから伸びる真っ白な腕。見覚えのある白いブラウス、ふんわりした黄色いスカート。チラチラと見るうちに、疑念が湧いた。緩いウェーブの懸かった肩までの髪…あれはまりちゃん。いや、ここにいるわけがない。いや、でもここはまりちゃんの母校だ。いやいや、母校には普通いないだろう。いや、いたっておかしくないだろ。いやまさか。動悸が早くなる。
「賢志郎、行くで」
相方がタクシーに乗り込もうとする。確信はない。いや、半分はある。
「賢志郎、どうしたんや」
「ちょっと、ちょっと待って」
荷物を全部タクシーに突っ込んだ。
「まりちゃん!」
俺はもうその場で叫んでいた。学生や相方が見ている中、躊躇よりも衝動が勝った。まりちゃんは俺を見た。立ち上がって、口を覆っている。
「まりちゃん!」
駆け寄った俺に手を掴まれて、まりちゃんの大きな目は見る見る涙でいっぱいになる。
「まりちゃん…」
引き寄せてきつく抱きしめると、あの懐かしい匂いがした。まりちゃんの使っている薔薇のシャンプー。抱き心地のいい、柔らかい身体。俺の腕にすっぽり収まったまりちゃんは、背中に手を回して、小さい声で俺の名前を呼んだ。愛しさに胸がズキンと痛む。
「まりちゃん、やっぱり好きや、もう一度…」
まりちゃんは何も言わず、ぽろぽろと涙を流すだけだった。やがて俺を引き剥がして、何か言いたげにじっと見た。ああもうこんなに泣いちゃって。可愛いまりちゃん。
「まりちゃん…」
俺の呼び掛けを否定するようにかぶりを振って、腕を振りほどき、本を拾い上げると、足早に立ち去って行った。涙も拭わずに。

○○大 大学祭 和牛川西で検索。
「大学祭に和牛来た!川西さんかっこええ」
「和牛。701号室狭い」
「お笑いステージに和牛!701に入れず!川西さん文春砲に撃たれる?」
「体育館でやらん運営アホ」
「水田さんムッチムチw可愛いw」
「川西さんがハグした女性を知ってる人教えてください」
「○○大の方、川西さんのハグ写真upお願いします!」
「日本文学科大学院生の木崎真理子」
「鴻巣の姫?」
「とっくに別れた」
「埼玉県立◇◇高校教諭」
「何それ#鴻巣の姫
「鴻巣の姫は、仔牛間では有名人」
「川西の彼女」
「彼女を営業先でハグってあり得んやろ」
「川西さーーーーん」
「え、先生?大学院生?どっち?何何何何」
「だいぶ前に破局したらしい」
「休暇取って大学院通ってる。うちの妹が習ってた。泉里香似のすげえ美人。」
「全国の仔牛に悲報」
「仔牛死亡」
「仔牛全滅」
「訳あり」
「彼女いたとかショック!」
「よく読め。別れたってあるやん」

俺は眠れずに、ベッドの上で輾転反側していた。電話をいつでもかけられるようにスマホを握りしめて。電話しようと起き上がり、画面を呼び出し、やっぱり無理で寝転がる…というのを延々と繰り返している。その合間にエゴサーチをしてみると、まりちゃんがあそこにいた理由まで知ることが出来た。休職して大学院生やっているとは驚いた。そう言えば、大学の恩師に戻ってこないか誘われているって言ってたっけ。俺は准教授って奴の下心を察知したが言わなかった。相変わらずだった。あの抱き心地の良さ。俺にぴったり合うように作られたような女の子。泣いちゃって、相変わらずだった。泣き止むまで抱きしめてやる特権がもうないのが悔しかったが。時計を見る。
「1時か…もう非常識タイムや」
いよいよ諦めがついて、スマホを放り投げた。まりちゃんからかかってこねえかな。今日を逃したらもう駄目な気がする。しかし俺にしては今日は頑張った。大声上げてまりちゃんを捕まえて、抱きしめて。舞台以外であのテンションが出たことに驚いた。そもそもが控えめな人間だというのに。それを同じ日にもう一押しするなんて無理だ。力尽きた。寝るしかない。大丈夫だ。大学という居場所が分かったんだから、どうにかして会えるだろう。ストーカーじみてるかな。まあいいや寝よう。その時、暗闇が静かに明滅した。追って着信音が聞こえた。画面には「まりちゃん」の表示。

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毎日毎日舞台。新宿、渋谷、大宮、幕張、なんば、うめだ、その他の地方営業、イベント、あとラジオ、テレビ。ネタ合わせ、ネタの修正、次の舞台へ出ていき、拍手と歓声に包まれる。今日もウケた。まだまだ行ける。何かにじっくりと向き合っている暇もなく日々が過ぎていくのは幸いだ。あれだけこだわっていたM1も、まりちゃんも、目の前の仕事に忙殺されて風化した。
「川西、読んでみたか。ノルウェーの森」
文学賞先輩は、あれ以来、会う度にこう聞いてくる。縁遠い人だったし、魅力を感じる。だから話せるのは嬉しいんだが、ノルウェーの森は買っただけで読んでいなかった。3回聞かれた後、さすがに次会ったら気まずいと思い読み始めた。まりちゃんがベッドで話していた「春の子熊」がいた。主人公ワタナベの大事な人がやたら死んでいく。主人公の喪失感を辿るうちに、まりちゃんに関わる喪失感が呼び覚まされた。俺はまりちゃんがたまらなく好きだったんだ。その人を、取り戻す努力もしないで失ったんだった。何度も何度も追憶に引きずり込まれ、その度に本を伏せた。

「なあ、まりちゃん…」
「ん、なあに」
まりちゃんが濡れた目でじっと俺を見た。指を絡ませあったり、肩を抱いたりしながらテレビを見ている内に、猛烈に抱きたくなった。それはまりちゃんが初めてうちに来た2月のことだった。仕事終わりのまま直行してきたまりちゃんは、品のいいニットとフレアスカートで玄関先に現れた。好きな人が、美しい人が玄関に立っている。内心は高校生みたくうろたえていたが、玄関先でとりあえずキスという、33才の彼氏らしい振る舞いがちゃんとできた。
「来てくれてありがとう」
「もー東京の電車難しくてワケわかんない」
「はは、俺も劇場に行くルートしか乗れんで」
居間に導かれて、ソファーの上にちょこんという感じで収まっているまりちゃん。まだ自分の居場所を決めあぐねている猫みたいに。花が咲いたようだ。昨日まで帰る意味もなかった部屋が、嘘のように意味を持つ。今日初めてまりちゃんは泊まっていくんだろう。玄関口でキスをしてそのままとも思ったが、それ以上はがっつけなかった。恋にどういう風に取り組めばいいのか、ほとんど忘れている。顔がよく見えるよう、前髪を綺麗に分け、横髪を両耳にかけてあげた。髪の毛を触れられること、恋人であること。まりちゃんは大人しく、されるがままにされていた。俺をじっと見上げ、何かを待っている様も猫のようだ。
「よっしゃ、可愛い」
「うふふ、ありがと…」
まりちゃんが体を寄せた。髪からか、身体からか、いい匂いがした。薔薇かな。腕に柔らかい胸が当たる。あ、もう駄目。堪らずに、唇を重ねていた。
「んん…」
小さな声を上げるまりちゃん。し心地のいい、柔らかい唇。何度も味わっては離れ、また味わう。やがて微かに開いて俺の舌を迎え入れる。舌を吸うと気持ちのいい音がする。テレビはうるさいから消した。反応の悪いリモコンに苛立つと、まりちゃんは少し笑った。時折切ない表情をしながら、まりちゃんはキスの快感に浸っている。その夜、まりちゃんは二回、可愛い声を上げて達した。華奢な体の割に大きな胸、柔らかくしなる真っ白な肢体、よく感じて、恥じらうまりちゃん。こんなに夢中で女の子を抱いたのは、何年ぶりだろうか。頭が空っぽになるくらい、彼女の体に没頭した夜だった。
「好きやもう、まりちゃん…」
「賢志郎、どうしよう、気持ちいいよう…」
まりちゃんが絞り出すような声を上げる。その声に追い詰められて、思わず動きを止めた。まりちゃんは涙の溜まった目でじっと俺を見返した。
「気持ちええの?」
「うんもう…イっちゃう…」
「イって…まりちゃん」
締め付ける柔肉に、俺は抽送を続けた。2回、3回、もう持ちそうにもないが。まりちゃんはギュッと目を閉じ、左手の薬指を噛んだ。
「声、我慢せんでええのに」
「ううん、違う…」
上気した頬が、俺を包むトロトロな通路が、全てがまりちゃんの快感を示している。その仕草を潮に、俺は限界を迎えたのだった。まりちゃんが心も全て投げ出したことが俺には分かった。ファンと遊んでいると、相手は自然20代前半となる。勿論いずれも可愛い子達だったし、肌のみずみずしさと感度の良さは堪らない魅力だったが、ベッドでの振る舞いは単調だった。所詮は遊びだし、こんなものだろうとしか思っていなかった。そこへ来て、まりちゃんとの行為はあまりに魅力的だった。まりちゃんは28才、おまけにこの美貌だ。ベッドでの余裕に、経験が滲み出ている。俺みたく、食い散らかしをするんではなく、ちゃんとした恋愛の中で経験を重ねて来たんだろう。当たり前だ。普通の子なんだから。上手い男に仕込まれたことがあるのも多分間違いない。とことん受け身になったり、奉仕も厭わず、自由自在に俺を翻弄する。でも最後は俺のペースに身を任せてくれる賢い人。欲望が、愛する人によって満たされていく。そんな当たり前の感覚がずっと失われていたことに気づく。俺の特別な人。今まで出会ったことのないくらいに特別な人だった。あれ、そんなに大事なものを一体どうして手放したんだ?馬鹿なのか俺は?
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テレビを見ていたら、具合が悪くなってきた。もう吐きそう。もうこれ以上は見ていられない。私はこんな事態に耐えられるように生きて来ていない。私は賢志郎の生きる世界で生きるつもりはないんだから。
「賢志郎、応援してるよ」
メッセージを一言だけ送って、そしてテレビを消した。
前評判の高さとは裏腹に、グランプリの前哨戦で、賢志郎達は絶不調だった。演芸評論家なる者が新聞でそれに触れていたのには驚いた。
『アイドル的人気を博した和牛は、M1グランプリに照準を合わせて全国ツアーを展開した。行く先々で熱狂的ファンが集まり、本人達も改めて人気を実感したことだろう。私も和牛を劇場で数回見たが、とにかく異常な人気に驚いた。ファンが何でも笑うのだ。川西、水田の一挙手一投足に歓声が上がる。これはネタ作りの勘が狂うな、と感じた。M1グランプリは人気投票ではなく、芸人による審査だ。ネタの構成やネタふりの効果、手数の多さ、落とし方まで、かなり技術的な部分で見てくる。M1だと10月以降にはネタを練り上げに入るだろう。本来はあちこちの舞台にM1用のネタをかけ、客の反応で修正の方向が見えてくるものだ。ところが今年の和牛はその人気が災いして、客席はファンだらけ。かけるネタかけるネタ全てが爆笑をとってしまう。これではどこを修正するか、どこを補完するかなどのヒントがなくお手上げになるのではないかと危惧した。M1予選で、和牛ファンでない観客を前に苦戦したのは当然の結果だったろう。しかし彼らはその人気ゆえ、ファン以外の前で漫才をすることは不可能だった。そしてネタの練り上げが後手に回った。そこを私は同情的に見ている。ただそれをも見通しての策がなかったことが悔やまれる。才能ある二人の、決勝戦での巻き返しを期待したい。』
今年の頭から、M1チャンピオンへの挑戦で勢いよく走り出したが、直前になってまさかの失速。それが自分達の人気によるものとは何という皮肉。勿論それが私たちの関係にも影を落とした。賢志郎は、私が彼を献身的に支えることを期待していた。その期待に応えない私に苛立つことが増えてきた。私も、私の仕事を軽視したような賢志郎の態度は腹に据えかねるものがあった。こうなってくるとつまらない意地の張り合いだ。日常の穏やかさが奪われていった。賢志郎にとっては、賞レースに向かう日々は織り込み済みの日常だろうけれど、私の仕事は穏やかな日常性の上に成り立っている。精神的に不安定な高校生を預かる上で、教師が淡々と日常を生きていることは重要なのだ。そこが奪われる。賢志郎との関係が、否が応でも私の生活に影響を及ぼしていた。華やかで、明日の保証もなく、ギャンブルのような賢志郎の世界。結婚なんて言い出して、安定の日々を招き入れようとしていたのかもしれない。でも多分、賢志郎は変わる気はなかっただろう。結婚が、私一人に変化を強いるものであることは容易に想像がついた。賢志郎は、自らを恃むところの非常に強い人だと何度も思わされた。こうとなったら梃子でも動かない。そうでなければあの曲者水田さんと10年以上組めるわけがない。最初は全てが水田さんのネタだったが、途中から賢志郎と二人で作るようになり、パワーバランスは今や五分五分だ。意外でも何でもない。賢志郎は、自分の意思を曲げるようなことは決してしない。あの人当たりの良さの一方で、難しさも一通りではなかったのだ。
捨てよう。
いつか誰かに奪われたり、自分のミスで失うくらいならば、捨てることを選ぶ。賢志郎が仕事を捨てる選択肢が無いのと同様、私も仕事は捨てたくない。これは私の矜持でもある。
着信音をOFFにし、布団をかぶって目をつぶると涙が流れた。朝になり、3度の着信があったことを知った。そしてもう2度と賢志郎からは連絡が来ないことも私は知っていた。今日も仕事。鏡の前で髪をまとめ、後ろで一つにくくる。洗面所で一回泣いておこう。化粧崩れが困るから。涙は決して拭かないこと。拭くと目が腫れるから。私は賢志郎よりも仕事を選んだことになる。果たしてこれは二者択一だったんだろうか?賢志郎を愛して、仕事もするのは可能だったのではないか?或いは、仕事よりも得難いものは賢志郎だったのではないか。あの時期を少し耐えてやり過ごせば良かったんじゃないか?賢くなかったのかな。今も思いは乱れている。今日帰ってきたら、テレビはクローゼットに入れてしまおう。実像にも、虚像にも、もう賢志郎と会うことは決してしない。
不実な別れ方だな。でも顔を合わせれば別れられないだろう。さよなら賢志郎。
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賢志郎は、巷間言われるような温厚な人間では決してなかった。扱いづらい人だった。気性も激しい。というか子ども。特に閉口したのは、原因不明の不機嫌だ。スマホを手にして一言も話さなくなる。他人は一歩でも自分の中に踏み込ませないという態度だ。初めてそんな目にあった時は、焦って押したり引いたりしてみたが、全くの膠着状態。私は気性の激しいめんどくさい人の相手をして生計を立てているので、職業的技術で応対した。賢志郎の機嫌が直るまで、何時間でも放置する。時々機嫌が直ったかチェックのため話しかけ、直ってなかったら再放置。腹が立たないでもないが、「この人は生徒だ」と自分に言い聞かせた。私は怒りが持続しない性質なので、めんどくさくなった時は外に出て、本屋やカフェで好きな時間を過ごした。お手上げとまでは思わなかった。誰もがこのくらいの面倒くささを持ち合わせていることは知っているから。勿論自分も面倒くささを抱えているから。
「呆れたやろ」
「うん、呆れた。半日もすねて」
「機嫌なおすきっかけが分からんのよ」
「私が何度も話しかけたでしょお」
「ああいう感じはあかんのよ…」
「どういう感じならいいのよ?めんどくさいわねぇ…」
「俺って駄目人間かな」
「それは誰でもそうなのよ」
「真理子先生…」
「少しは反省しなさいよ、川西くん」
「先生、好きや」
「好きになっちゃ駄目」
「先生、やらせて」
「バカ!」
私たちは性格上、言い合いの喧嘩にはならなかった。ひたすら冷戦が続くだけだ。先の見えない持久戦だが、言葉の応酬でダメージを受けるよりはいい。テレビに出ている賢志郎を見ていると、余りのこじらせぶりに笑ってしまう。感じが良すぎる。お前は人柄が良さそうだとか、ツッコミ王子とか、ファンへの神対応とか、関西の一番人気芸人だとか。相方がヒールを演じてくれる分、賢志郎の演じるベビーフェイスの荷が重くなる。虚像が美しすぎるほど、実像は疲れ果てる。
「やっぱ一つ冠が欲しいねん」
「レギュラーがあればいいんじゃなくて?」
「それは違う。もう全然違うんや」
「そうなの」
「いくらレギュラーで呼ばれても、お笑いは刺身のツマや。女優さんやアイドルをおいしくさせるためにいじられんのが役割や。それがMCになってみ。女優さんや大御所らと対等に渡り合わなあかんやろ。格が全然ちごて来るもん。今田さんなんか凄いやろ。モデルと並んでおっしゃれな番組やってるし、M1では上戸彩ちゃんと同格や」
「ああ、ホントね、そうか…」
「ほんま、冠番組持って…」
「女優と仕事がしたい」
「そうや。いや違う」
お笑い番組は彼にとって勉強なので、賢志郎が言いたいことがあれば真面目に応じる。気難しい顔をしていれば私は読書する。とりあえず二人でソファーにいる。向かい合ったり、重なりあったり、一人は上で一人は床で、とか。大体そこで睦み合い、後はベッドに移動するか、そのままそこで。私たちはお互いが、頭から仕事を抜くのに必要な存在だった。
「綺麗な脇やなぁ」
ソファに寝たまま伸びをしたら、賢志郎が出し抜けに腕を押さえつけてきた。読みかけの本が床に落ちる。
「きゃっ!…」
「脇の処理はどうしてんの」
「ちょっともう!バカ…」
小学生男子みたいな質問に、思わず笑ってしまう。言ってるそばから賢志郎は脇に唇を当てた。
「あっ…」
「真っ白くて…エッチやなぁ」
「ん、やだ…」
肘を押さえつけられて、身動きが出来ない。愛撫され慣れてない場所。むずがゆい。こんなところにキスされるのは初めてかも。唇が触れて、そこをついばむ。堪らず、内腿を擦り合わせた。
「エッチな匂いや…」
「んんっ…やぁ」
性急にブラウスの前が開けられ、ブラの肩紐を外される。現れた膨らみを、賢志郎は大事そうに手で包み、柔らかく揉みしだいた。指と唇で優しく先端を弄ばれると、上ずった声が出てしまう。
「あぁ…ん…ねえ…ここでしちゃうの?」
「ん?駄目?」
「いいソファが汚れちゃうよ」
「まりちゃんのせいでな」
「違う、賢志郎のが」
「まりちゃん、お下品やで」
「何よもう、賢志郎なんか脇に発情したくせに」
賢志郎は吹き出した。
「確かになぁ」
「でしょ」
「まりちゃんに発情しない男はいないて。可愛い顔して、可愛い声出すし、このエロい体でしょ、…ここ…」
胸の先端を優しく噛まれる。音を立てて吸われる。賢志郎の暖かい舌が気持ちいい。同時に、蕩けた通路に指が侵入してくる。
「あ!…ん、…あぁっ…いや、もう…」
「すぐ濡れちゃうもんな、まりちゃん…もうトロトロやん…」
この日は、脇に賢志郎の愛撫を受けたまま、繋がった。
「い、やぁん…あっ、あっ…」
「まりちゃんそんな…締めないで…」
「んん…だって…気持ちいい…」
羞恥とともに、思いがけなく強い快感が襲ってくる。私の太ももが、賢志郎の腰を強く引き寄せた。腰が、賢志郎の抽送を求めて動いてしまう。あと5回も突かれたらイっちゃう。いや、3回…。どうしてこんなに気持ちいいんだろう。気持ちいいキスをしながら、まず私が達し、すぐに賢志郎が後を追った。
かくして、賢志郎が満を持して買った高級ソファが営みの現場として消費されたのだった。いつかの楽しい夜の思い出。
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